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2015/02/28 Sat. 01:03:08 edit
前回の前書きで、二人はもう閑岱についてると…(~_~;)
そこに行く前に話を終わらせてしまってた……。
気を取り直して。 今回こそ。二人そろって閑岱へ。
鋼牙から離れないよう魔法衣の端を軽く抓んで、足取りも軽く、鼻歌を歌いだしそうになっているカオル。
対して、魔法衣を抓まれている鋼牙はといえば……。
眉間の皺がいつにも増して深く刻まれている。普段より歩みが遅いのも、カオルに合わせているだけではなかった。
(早まったかもしれない……)
カオルを連れて閑岱へ向かうことだ。
カオルは市井で暮らす一般人だ。カオルが確認している魔戒の者といえば自分たち主従と涼邑零くらいのものだ。
(早計だったかもしれない…)
仕事なのかと尋ねられ閑岱へ行くと告げた時のカオルの表情が淋しそうに見えてつい、ついてくるかと誘ってしまった。
文面から受ける嫌な予感を、カオルを同伴させることで回避しようとしたのも歩みを遅くする一因なのだが。
「閑岱? ってどんなところなの? 建物とか、景色とか」
これから向かう場所がどんな所なのか気になる風で、クリクリとした瞳を輝かせて尋ねてくる。
「建物も景色も、きっとお前が気に入る風景だ」
僅かに見下ろしてくる鋼牙は、微かな笑みを浮かべている。
「そっかぁ。楽しみ」
きっといい所なんだろう。あの鋼牙が、こんな表情で語るくらいなのだから。
里の入り口に二人の若者が立っていた。
日向と暁だ。
閑岱を護る白夜騎士・打無の称号を持つ山刀翼に師事している二人が、白い魔法衣を纏った鋼牙に気付いて、一礼して迎えた。
「我雷法師が庵でお待ちです」
「承知した」
日向の言葉に短く答える鋼牙のすぐ後ろにいるフワフワとした雰囲気の女性に、暁が気付いた。
「あの、そちらの女性は?」
「あれ、あんたは……」
鋼牙が口を開くより早く女の声がした。
「あなた、あの時の……」
カオルも見覚えのあるその女の顔に驚きの声を上げた。
「我雷法師から聞いてるよ。さっさと終わらせておいでよ。あんたはあたしの庵で待ってればいいさ。すぐ終わる話だ」
鋼牙から離れるという心細さはあったが、すぐに終わる話だということだし、目の前に立つ女性にも興味はあった。
(あの時は分からなかったけど……綺麗な人……。スタイルもいいし……描いてみたいなぁ…)
ポーッとした目で邪美を見つめるカオルに、鋼牙は口元を緩め、邪美に目礼して我雷法師の庵に向かった。
「ほら、あんたもこんなとこに突っ立ってないで。行くよ」
「あ、待って………」
呼び止められて振り向くと、カオルが困ったような顔をしていた。それからニコリとほほ笑んで口を開いた。
「私、御月カオルです。前に会った時には名前言ってなかったから」
そう言われて初めて、自分も名乗っていなかったことに気付き、カオルへ向き直った。
「あたしは邪美という。で、そっちの二人。向かって左が日向。右が暁」
初めましてと笑みを浮かべて会釈するカオルに、頬を染めて会釈を返す日向と暁。
カオルはそのまま邪美についてその場を去った。
「日向さん、彼女……もしかして冴島さんの?」
「そうでなきゃ連れてこないんじゃないか?」
暁の言葉に同意しつつ、それでも、と思う。
騎士と、法師が多数を占めるこの閑岱に、市井の人間が足を踏み入れたことはすぐに知れる。
いくら牙狼の連れてきた人間とはいえ、この閑岱であの恰好は目立ちすぎる。騒ぎの元にならなければいいと思ってはいるが……。
「多分もう遅いだろうなぁ」
「どうしたんですか、日向さん?」
自分の呟きを聞き取った暁に、なんでもないと返して、見張りの仕事に戻った。
良いも悪いもない。すでに二人はこの里に入ってしまったのだから。
我雷法師の庵の前には法師の側近の一人黄花が立っていた。
鋼牙に一礼した黄花が、先に立って庵の中へと姿を消した。
「よう来なされた、鋼牙殿」
ニコニコと招き入れた法師に軽く会釈をした鋼牙が顔を上げた時、見た覚えのない法師が奥に立っているのが見えた。
「早速ですが我雷法師、折り入って話したいこと。とは?」
あの一文を読み取った時に感じた嫌な予感がまたも背筋を駆け昇ってくる。
「その前に。こちらへ来なさい」
我雷は後ろで控えていた法師を傍に呼んだ。
「芙蓉という。知人の娘でな「冴島様の元で法師としての腕を磨きたいのです。行儀見習いとしてお側に置いていただきたいと思いまして」
我雷の言葉を遮り話に割って入った芙蓉に、鋼牙の機嫌は一気に悪くなった。
ちらりと我雷法師を見やればすまなそうな表情でこちらを見つめている。
『早い話、鋼牙と良い仲になって、冴島の姓を名乗りたいっていうことか?』
左手中指に納まっているザルバが鋼牙に代わって口を開いた。
「そこは急ぎませんよ、わたくし。冴島様、どうかお考えくださいね」
そう言ってさっさと出て行ってしまった。
あまりの態度に鋼牙が何も言えずにいると、先ほどからすまなそうな表情をしたままの我雷が、ようやく口を開けた。
「申し訳ない、鋼牙殿。芙蓉は知人の娘でな、それなりに名のある家柄で二親共に悪い人間ではないのだが」
芙蓉の両親は、なかなか子供に恵まれず、ようやく授かった一粒種なのだそうだ。
家に余裕があったことと、ようやく授かった子供ということ、そして、幼子にしては強い魔導力を持っていたということで、家人は芙蓉を溺愛していた。
望むものは与えたし、嫌がることはさせなかった。
そんな芙蓉が最近欲しがっているのが……。
『牙狼の伴侶って事か』
「実はな、鋼牙殿を呼んだのはそのことを話したかったからじゃ。芙蓉を是非というつもりはないが…。
鋼牙殿も、もう20も半ば。そろそろ身を固めねばならぬ年頃じゃろう? これという女人が居らぬなら、しばらくの間傍に置いてみてはどうかな?」
予感的中。
芙蓉がどういう人間かも大凡の見当はついたが、それだけに迂闊にカオルの名を出すことは憚られた。
だが、このままでもいずれ知られることになる。カオルもここにいるのだから。
「法師。そのお話しですが、お受けすることはできません」
「鋼牙殿?」
「私には今、親しく行き来をしているものが居ります。
今日ここへも、その者を伴ってまいりました」
閑岱の長、数多いる法師たちの中にあっても実力者として知られる我雷法師を前に、真っ直ぐな瞳を向けて隠すことなくそう告げた。
カオルの安全を思うならば伏せておくべきことだろうが、すでに里の入り口で日向と暁、邪美に会っているのだ。
三人に知られてしまえば、あとは何人に知られても同じことだ。そして邪美ならば――。
「フム。 御月カオル殿、か。」
我雷の言葉に目を瞠った鋼牙に、柔らかな笑みを向けた。
「生前、阿門から聞いておった。鋼牙殿が、一人の女子を救おうとしておる、と。
ようやく、守りたいと思うものを見つけたようだ、とな」
「阿門法師が……」
では、自分たちの、カオルの過去も知っているのだろう。
鋼牙はいつの間にか両手をきつく握りしめていた。
つづく
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